アボリジナルアートとは?オーストラリア先住民の絵画の魅力

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アボリジナルアートとは?オーストラリア先住民の絵画の魅力

アボリジナルアート/aboriginal art

文字を持たないアボリジナルの祖先は、洞窟や岸壁に黄土などの天然素材で絵を描き情報を伝達してきました。1971年にイギリス人の美術教師ジェフリー・バードン(Geoffrey Bardon)の指導により、キャンバスにアクリル絵の具で絵を描きはじめたのがアボリジナルアートの始まりとされています。オーストラリアには、ジャンバル・ギャラリーニューサウスウェールズ州立美術館イアン・ポッター・センターなどアボリジナルアートを扱うギャラリーや博物館が多数点在します。
現存する最古の文化と言われるアボリジナル文化に根差し、世界的に高い評価を受けるアボリジナルアートについて紹介します。

アボリジナルとは?

アボリジナルとは古代からオーストラリアに定住する先住民族の呼称で、ルーツは約5万年前までさかのぼります。第4氷河期中頃にアジア方面から移動してきた民族が起源とされ、ラテン語で“初めから”を意味する“アボリジニ(ab origine)”が語源です。自然を崇拝し現在でも自然界には精霊が存在すると信じられ、“ウルル(エアーズロック)”は精霊が宿る神聖な場所として大切にされています。それぞれのコミュニティには地域や部族により異なる言語や生活習慣があり、オーストラリア政府から認められた民族旗があります。オーストラリア統計局によると、アボリジナルの人口はトレス海峡諸島を含めオーストラリア全体の約4%になるとみられています。
なお、近年のオーストラリアでは“アボリジニ”は差別的な響きがあるとして“アボリジナル”、“アボリジナル・ピープル”などの表現が一般化しつつあります。

アボリジナルアートとは?

オーストラリアの先住民アボリジナルは狩猟や採集をしながら生活し文字を持たないため、絵を描くことで情報を伝達しコミュニケーションを図っていました。アボリジナルの歴史は5万年前までさかのぼり、約600もの言語集団が黄土や砂を使い独自の世界観を描いてきました。1970年代初頭に美術教師がアクリル絵の具やキャンバスを伝え、それまで大地や人体に描いていた絵をキャンバスに描くようになったのがアボリジナルアートの始まりです。長い歴史と独自の文化に根差すアボリジナルアートは、そのカラフルな色使いやユニークなタッチから国内だけでなく海外からも注目されています。

アボリジナルアートの特徴

大自然の中で狩猟・採集生活をしていたアボリジナルの人々には読み書きするための文字がありませんでした。代わりに絵を描くことで様々な情報を伝えました。世界遺産カカドゥ国立公園などにある壁画はアボリジナルアートの原型とも言われ、オーストラリアの歴史を知る上で貴重な史料となっています。アボリジナルアートで特徴的な画法は2つあります。1つ目はドット・ペインティング(点描画)と呼ばれる画法で、数多くの小さな点(ドット)を使い様々な事象を表現します。2つ目はX線(レントゲン)のように動物の骨格や内臓が透けているように描くもので、エックスレイ・ペインティング(レントゲン画法)と呼ばれます。生活に則した記号をシンボルと呼び、模様として描くのもアボリジナルアートの特徴のひとつでしょう。

ドット・ペインティング(点描画)

ドット・ペインティング(点描画)

アボリジナルアートでよく見かけるドット・ペインティング(点描画)は、名前の通り点を多用し様々なモチーフを描きます。アボリジナルの祖先は、動物や食用植物、水源の位置を示すため幾何学的な模様を地面に描いていました。その“模様”をキャンバスに描くにあたりドット・ペインティング(点描画)が誕生しました。現在のペインティングスタイルは1970年代初頭にイギリス人美術教師ジェフリー・バードン(Geoffrey bardon)が興したパプンヤツラ芸術運動から生まれたと言われています。この技法は、アボリジナルアートの特徴のひとつとして広く認知されました。その描画スタイルは地域ごとに多種多様なバリエーションがあり、モチーフやその集合体により様々な世界を表現しています。

エックスレイ・ペインティング(レントゲン画法)

エックスレイ・ペインティング(レントゲン画法)

エックスレイ・ペインティング(レントゲン画法)は、動物をレントゲンで撮影したように骨格・内臓が透けた状態で描かれます。この技法で描かれるモチーフの多くは食用の魚や動物で、食用部分とそれ以外を伝えるために用いられたと考えられています。“エックスレイ・ペインティング”の原型とされる壁画はアーネム・ランド西部の洞窟ユービア(Ubirr)で見ることができます。“ユービア”近くのインジャラック・アートセンターではアボリジナルアートの制作が見学できるほか作品の購入もできます。

アボリジナルアート特有の模様

アボリジナルアート特有の模様

アボリジナルは自然崇拝に重きを置き、自然界に存在するとされる精霊を信仰しています。精霊がすべてを創造したと考えられ、精霊による天地創造の神話があります。アボリジナルによる特有の思想“ドリームタイム”の“ドリーム(Dream)”は“夢”ではなく“生活を送る”、“旅をする”という意味を表します。アボリジナルの宗教文化には輪廻転生の思想が根付いているため、旅をすることで地面に足跡が残るのと同様に肉体が滅びても人々の魂がその土地に宿ると考えられています。こうした言い伝えを次世代に伝承するため、アボリジナルの祖先は様々なシンボルを模様として描きました。現代の作品でもシンボルは多用され、同心円、曲線はそれぞれ雨や地下を流れる水や住居など重要な場所を、直線は旅を表します。抽象的に見えるアボリジナルアートも、シンボルの意味を知ることで自然や命のつながりを感じることができるでしょう。

代表的なアボリジナルアーティスト

エミリー・カーメ・ウングワレー / Emily Kame Kngwarreye

エミリー・カーメ・ウングワレーは、アリススプリングスの北東230kmにあるアボリジナルの集落“アルハルケレ”で1910年頃に生まれました。美術教育を受けたことは一度もなく学校に通ったことさえありませんでした。ろうけつ染めで描いていた絵を70歳を過ぎてからキャンパスに描きはじめ、アボリジナルアートの制作が始まります。初めて手掛けたキャンバス画はドット・ペインティングで描かれた『エミューの女(Emu Woman)』で、1996年に死去するまでの8年間で3,000点以上の作品を残しています。アボリジナルの思想ドリームを題材に描いた『大地の創造(Earth’s Creation)』は2007年に行われたオークションで100万オーストラリアドルの値段で落札されました。トレードマークの鼻のピアスは、故郷“アルハルケレ”にある穴の開いた岩に対し敬意を表していると言われています。

ローバー・トーマス・ジュラマ / Rover Julama Thomas

ローバー・トーマス・ジュラマは1926年に西オーストラリア州のカニングストックルートで生まれました。両親が亡くなった後、牧畜業を営む叔父とキンバリーに移住しカウボーイとして働きました。1977年には叔父と運搬用の木箱に絵を描き始め、黄土を使用した作品を多数残しました。1990年にニューサウスウェールズ州立美術館でジョン・マコーギー賞を受賞し、同年ベネツィア・ビエンナーレにアボリジナルアーティストとして初の出展を果たします。これを機に彼の作品は国内外で広く知られ人気が高まりました。また、数々の芸術作品を生み出すだけではなく、その後に続くクイニー・マッケンジー(queenie mckenzie)フレディ・ティムズ(Freddie Timms)パディ・ベッドフォード(paddy bedford)など多くの芸術家に影響を与えています。

アルバート・ナマジラ / Albert Namatjira

アルバート・ナマジラは18世紀にノーザンテリトリーマクドネル山脈で生まれました。水彩画家レックス・バタービー(rex battarbee)から指導を受けた彼の作品は、一般的なアボリジナルアートと異なり西洋美術の技法を取り入れた風景画です。アボリジナルアートの方向性を大きく変えたハーマンズバーグ派初代メンバーから傑出したアボリジナルアーティストとして世界的に人気が高まります。1953年にはイギリスのエリザベス女王より戴冠メダルを授与され、アボリジナルとして初めて市民権が与えられました。
ナマジラの作品に多く描かれたアリススプリングの高台には「これは芸術家”アルバート・ナマジラ”に影響を与えた風景です」と刻まれた記念碑が建っています。

クリフォード・ポッサム・チャパルトジャーリ / Clifford Possum Tjapaltjarri

クリフォード・ポッサム・チャパルトジャーリアリススプリングのナパービーで生まれました。中央オーストラリア内で転々と仕事場を変えながら、生まれ故郷アンマティエールを含む6つの地域の言語と英語を習得します。畜産業を営みながらパプニャ出身のアーティスト数名と共にドット・ペインティングのスタイルを確立しました。1972年にはパプンヤツラアーティストスクールの創設ディレクターに就任。代表作『ワルグロン(Warlugulong)』は、アボリジナルアートとしてオークション史上最高額となる240万オーストラリアドルでオーストラリア国立美術館が落札した事で知られます。

ニューサウスウェールズ州立美術館 / Art Gallery of New South Wales

アボリジナルアートを鑑賞する

ニューサウスウェールズ州立美術館 / Art Gallery of New South Wales

1971年に設立されたニューサウスウェールズ州立美術館(AGNSW)ビクトリア国立美術館に次ぐオーストラリアで2番目の大きさを誇ります。常設展ではオーストラリア国内のアーティストからアボリジナルやトレス海峡先住民の作品が展示され、アートを学ぶガイドツアーが毎日催行されます。開館時間は午前10時から午後5時まで(クリスマスと聖金曜日は休館)、入場は無料です。メンバー登録すると有料のイベントや展示会に無料で参加できるほか、ギャラリーショップカフェ&レストランでの割引サービスが受けられます。創立150周年の記念プロジェクトにより作品の展示スペースが2倍に拡張され、より多くの作品が展示されるようになりました。

所在地:Art Gallery Rd, Sydney NSW 2000
アクセス:バス停“ニューサウスウェールズ州立美術館(Art Gallery of NSW)”から徒歩1分
営業時間:クリスマス、聖金曜日を除く毎日 10:00~17:00
公式サイト:Art Gallery of New South Wales
イアン・ポッター・センター / Ian Potter Centre

イアン・ポッター・センター / Ian Potter Centre

イアン・ポッター・センター(NGVオーストラリア)は、オーストラリアで最も入場者数が多い美術館“ビクトリア国立美術館(NGVインターナショナル)”の別館として2003年にオープンしました。ガラス張りの建物の中に針を巡らせたような、現代的デザインの外観が特徴です。館内には20以上のギャラリーがあり、植民地時代のものから現代美術まで約2万点のコレクションを保有しています。常時展示されている800点は、ほとんどがアボリジナルアートやオーストラリア人アーティストの作品です。クリスマスを除く午前10時から午後5時まで一般公開され、常設展は無料で鑑賞することができます。

所在地:180 St Kilda Rd, Melbourne VIC 3006
アクセス:トラムまたは電車“フェデレーション・ストリート(Flinders Street)”駅徒歩1分
営業時間:クリスマスを除く毎日 10:00~17:00
公式サイト:Ian Potter Centre

ジャンバル・ギャラリー / janbal gallery

ケアンズの北に位置するジャンバル・ギャラリーでは、アボリジナルアートの文化や歴史を学ぶことができます。ここに訪れたら、アボリジナルアーティストでもあるオーナーブライアン・ビンナ・スウィンドリー(Brian ‘Binna’ Swindley)主催のアート・ワークショップに参加しましょう。月曜日から金曜日の午前10時と午後2時に開催される1時間半のワークショップでは、アボリジナルが狩りに使うブーメランを飛ばしたり、ドット・ペインティングで描いた自分の作品を持ち帰ることができます。
ギャラリーの開館時間は月曜日から金曜日の午前9時から午後5時まで、土・日曜日に訪問する際は予約が必要です。

所在地:5 Johnston Road、Mossman QLD 4873
アクセス:ケアンズ中心部から車で1時間
営業時間:月~金曜日 9:00~17:00 (土・日曜日は予約が必要です)
公式サイト:janbal gallery

アボリジナルアートを購入する

アートランディシ・ギャラリー / Artlandish gallery

2001年にオープンしたアートランディシ・ギャラリーは西オーストラリア州のカナナラに拠点があり、“カナナラ”のほか“ワーマン”、“キンバリー”、“ノーザンテリトリー”などオーストラリア全域のアボリジナルアートが揃います。メインはオンラインショップでの販売となり、自然の黄土を使用した伝統的なアボリジナルアートやアクリル画アートなど、スタイル別にカテゴライズされ作品が探しやすくなっています。ウェブサイトにはアボリジナル特有の思想ドリームタイムアートスタイルを紹介するアボリジナルアートライブラリーが開設されています。一括払いのほか分割払に対応し、商品を取り置きできるレイ・バイが利用できます。世界各国に配送でき、送料は無料です。

所在地:10 Papuana St, Kununurra, Western 6743
アクセス:カナナラ空港から車で5分
営業時間:月~金曜日 9:00~16:00、土曜日 9:00~12:00 (日曜日休業)
公式サイト:Artlandish gallery

ムバンチュア・ギャラリー / Mbantua Gallery

アリススプリングスダーウィンの2か所に拠点を置くムバンチュア・ギャラリーはアボリジナルアート専門のオンラインショップです。アーネム・ランドキンバリー、中央西部砂漠に何千年も住んでいるジャオワン族、ワルピリ族、ダラボン族の作品から現代的な作品まで多種多様なアボリジナルアートが揃います。作品は価格やアーティスト別、他のサイトには見られないサイズ別に分類されているため、好みの作品をすぐに見つけられます。アート作品を販売するユートピア・オーストラリアとアート製品を扱うGALLERY33があり、“GALLERY33”ではアボリジナルアートをプリントした雑貨やアクセサリーが人気です。ウェブサイト内にある“カルチャーライブラリー”のページでは、アボリジナル文化ブッシュタッカーと呼ばれるアボリジナルの食文化を紹介しています。
アボリジナル文化やアーティストの保護に貢献していることでも知られ、購入したアート作品は世界中どこにでも無料配送されます。

所在地:2/30 The Mall, Darwin City NT 0800
アクセス:オンラインのみ
営業時間:24時間年中無休
公式サイト:Mbantua Gallery

トップ・ディジュ / Top Didj

トップ・ディジュのアートギャラリーで扱う作品は、アボリジナルアート、工芸品、虫食いのユーカリの木から作られる木管楽器“ディジュリドゥ”などです。作品を直に観ることができるギャラリーとオンラインショップの両方で販売されています。ギャラリーはダーウィンから南に約3時間の場所に位置し、主にアーネム・ランドキンバリーの砂漠地帯に住むジャオイン族やダゴマン族の手による作品が揃います。ギャラリーではアボリジナルアーティストマヌエル・パムカルのガイドでアボリジナルを学ぶツアーも催行されます。午前と午後の2回開催され、2時間でアボリジナル文化やアートについて学びながら作品制作ができます。ギャラリーは5月から10月までオープンしていますが、11月から4月はオンラインのみの営業になるため注意が必要です。

所在地:363 Gorge Road、Landsdowne Katherine、NT 0850
アクセス:ダーウィン国際空港から車で約3時間
営業時間:5月~10月 9:00~17:00 (11月~4月はオンラインのみ)
公式サイト:Top Didj

アボリジナル文化を体験する

オーストラリアの先住民アボリジナルについて学び特有の世界観を知ることで、アボリジナルアートをより深く理解することができます。現地ではアボリジナル文化について学ぶツアーが多数開催されているため、参加してみてはいかがでしょう。アボリジナルアートの原型となった遺跡が残る地域や文化についてはオーストラリア政府観光局ホームページ内アボリジナルと文化から、アートについてはアボリジナルアートと美術館で確認できます。
なお、新型コロナウイルスの影響により営業時間やツアー・プログラムが変更される場合があるため、訪れる際は開催状況をご確認ください。

オーストラリアに渡航するならETAS(イータス)申請が必要

観光や出張などを目的としてオーストラリアに渡航するにはETAS(イータス)の申請が必要です。ETAS(イータス)を管轄するオーストラリア政府移民局では渡航が決定した段階でETAS(イータス)の申請を推奨しています。日本国籍の方はETAS(イータス)を利用したオーストラリア渡航が認められており、渡航目的が旅行か短期商用で3か月以内の滞在であればビザを取得する必要はありません。ETAS(イータス)申請後は当局による審査が行われ、多くの場合は申請当日または翌日には審査結果が届きます。ただし、審査に時間が必要な場合もあるため渡航3日前までにはETAS(イータス)申請を済ませましょう。ETAS(イータス)に関する詳しい情報と申請方法は“オーストラリア観光ビザのETAS(イータス)とは”をご確認ください。

更新日 : 2022/10/12